2013年 03月 27日
『へばの』についていま思うこと、のゆくえ(仮) |
『へばの』は、いわば父親への映画だった。
僕の青森の祖父は林檎農家、91歳で亡くなるまでほとんどその人生を林檎をつくることで全うできた。祖父は林檎が肉体的につくれなくなる頃、亡くなった。見事であり、幸せな人生だったと思う。対して団塊世代の僕の父親は目に見えるものをつくる仕事ではなく、土地や賃貸を相手に金銭をやりとりする。
10代後半から20代半ばまで、僕は父親と仲がよくなかった。
どこの家庭にでもある事情であり、それ以上に個人的なものもあった。
「この人に育ててもらった」と思ったのは、情けないが25歳くらいの頃。
映画を続けようと大学を出てから塾講師、工場、飲食、色々なバイトを転々とし、にっちもさっちもいかなくなっていた時期、店のお客さんに言われた一言だった。ふざけるな、お前の親父はお前をそんなに大きくするまで責任取ってんだろうが、と。責任。自分が果たしたことのあるものだろうか、と思った言葉。ある有名な脚本家にこうも言われた。子供を一人育てるぐらい凄い映画というのはあるのだろうか―と。
『へばの』の紀美の父親は、原子力施設という村にとって大事なもの、見えないものを相手にする仕事を自分の世代で引き受けることによって、子供を守ろうとした。そして、その見えないもので子孫に疵を残す。
見えざる未来への恐怖、娘と婿の心の瑕、解決のない躊躇と選択。
見えないものと闘い続けた人生の最期、それを見えるもの(=巨大な豪邸)で娘を包むことによって、もう一度子供を守ろうとする。そのがらんどうの豪邸は、村にきたきらびやかなハコモノの公共施設のようなもの…。 そこでは父親は―娘、孫が遊びまわる風景を当然夢見ていたのだろう。
紀美には最初はそれが分からない。
大事な人は誰ひとりいなくなった、ただの広い、こんなもの。
しかしそこに残って父親が遺したものと共にあることを、最後の最後で選択したのだと思う。
六ヶ所村の光景を最初観たとき―どこから言葉を発していいか、なにから語っていいか、言葉が出ず―そしてこうも思った。―観なかったことにしたい、忘れたい、もうすべてが出来上がってしまっている、今更なにも出来ない。そう思いながらも5年前、スタッフを7人、俳優を2人、連れて行った。
『へばの』は父親と子を見つめたいという一点の幹から、言語化不能だった問題に言葉を発せられた。
原子力施設、原発について考えることはそこからだった。
僕は28年間、目に見えないものを相手にしてきた父親の仕事と葛藤とに守られてきた。
その自覚から、やっとあの映画を撮れたんだと思う。
(監督:木村文洋)
『愛のゆくえ(仮)』連続上映Vol.1
×『へばの』
日時:2013年3月30日(土)
開場:18;00- 開映:18:30-第一部『へばの』 20:00-第二部『愛のゆくえ(仮)』
場所:東中野ポレポレ坐 http://za.polepoletimes.jp/
料金:予約1,500円/当日1,800円 (第二部のみ参加の方は一律1,000円)
予約:Email : aikarimovie@yahoo.co.jp
僕の青森の祖父は林檎農家、91歳で亡くなるまでほとんどその人生を林檎をつくることで全うできた。祖父は林檎が肉体的につくれなくなる頃、亡くなった。見事であり、幸せな人生だったと思う。対して団塊世代の僕の父親は目に見えるものをつくる仕事ではなく、土地や賃貸を相手に金銭をやりとりする。
10代後半から20代半ばまで、僕は父親と仲がよくなかった。
どこの家庭にでもある事情であり、それ以上に個人的なものもあった。
「この人に育ててもらった」と思ったのは、情けないが25歳くらいの頃。
映画を続けようと大学を出てから塾講師、工場、飲食、色々なバイトを転々とし、にっちもさっちもいかなくなっていた時期、店のお客さんに言われた一言だった。ふざけるな、お前の親父はお前をそんなに大きくするまで責任取ってんだろうが、と。責任。自分が果たしたことのあるものだろうか、と思った言葉。ある有名な脚本家にこうも言われた。子供を一人育てるぐらい凄い映画というのはあるのだろうか―と。
『へばの』の紀美の父親は、原子力施設という村にとって大事なもの、見えないものを相手にする仕事を自分の世代で引き受けることによって、子供を守ろうとした。そして、その見えないもので子孫に疵を残す。
見えざる未来への恐怖、娘と婿の心の瑕、解決のない躊躇と選択。
見えないものと闘い続けた人生の最期、それを見えるもの(=巨大な豪邸)で娘を包むことによって、もう一度子供を守ろうとする。そのがらんどうの豪邸は、村にきたきらびやかなハコモノの公共施設のようなもの…。 そこでは父親は―娘、孫が遊びまわる風景を当然夢見ていたのだろう。
紀美には最初はそれが分からない。
大事な人は誰ひとりいなくなった、ただの広い、こんなもの。
しかしそこに残って父親が遺したものと共にあることを、最後の最後で選択したのだと思う。
六ヶ所村の光景を最初観たとき―どこから言葉を発していいか、なにから語っていいか、言葉が出ず―そしてこうも思った。―観なかったことにしたい、忘れたい、もうすべてが出来上がってしまっている、今更なにも出来ない。そう思いながらも5年前、スタッフを7人、俳優を2人、連れて行った。
『へばの』は父親と子を見つめたいという一点の幹から、言語化不能だった問題に言葉を発せられた。
原子力施設、原発について考えることはそこからだった。
僕は28年間、目に見えないものを相手にしてきた父親の仕事と葛藤とに守られてきた。
その自覚から、やっとあの映画を撮れたんだと思う。
(監督:木村文洋)
『愛のゆくえ(仮)』連続上映Vol.1
×『へばの』
日時:2013年3月30日(土)
開場:18;00- 開映:18:30-第一部『へばの』 20:00-第二部『愛のゆくえ(仮)』
場所:東中野ポレポレ坐 http://za.polepoletimes.jp/
料金:予約1,500円/当日1,800円 (第二部のみ参加の方は一律1,000円)
予約:Email : aikarimovie@yahoo.co.jp
by aikarimovie
| 2013-03-27 23:53